1. はじめに
1.2 目的
 局所臨界レイノルズ数を決定するためには,周波数,振幅および位相を制御した人工撹乱を流れに導入し,その増幅特性を調べればよい.付着線近傍領域には横流れ不安定と流線曲率不安定が存在しているが,撹乱の伝播方向が互いに異なる性質を利用して,点源から撹乱を導入すれば2つの不安定から成長あるいは減衰する撹乱を分離できるはずである(図2).
 Itohの撹乱伝播に関する理論による予測5)に基づいて,Tokugawaら7)はこの点源励起法を後退円柱の三次元境界層に応用し,点源から発達した楔状撹乱の空間挙動を調べた.点源に近い領域では2つの不安定モードの分散が十分でなく,波動の干渉が観測された.この干渉は2つの波動の単なる線形な重ね合わせであることは示唆されたが,計測された振幅分布から2種類のモードを分離することが可能かどうか,検証は行われていない.
 そこで本研究の目的は,干渉する2種類の不安定撹乱を分離する方法を考案し,それぞれの振幅を求めることである.それぞれの最大振幅を求めることが出来れば,付着線近傍の臨界レイノルズ数を決定することが可能になる.以下の章では,まず実験装置および方法について説明し,これまでに明らかになっている問題点を今回得られた実験結果から明らかにする.4章で撹乱の分離方法を提案し,56章で分離された2種類の撹乱の増幅および伝播特性について議論する.
図2: 後退円柱付着線近傍の点源から導入された撹乱の挙動.