5.分離された撹乱の特性
5.2  Z方向の変化
 次に境界層方向の振幅および位相分布を示す.計測を行ったY=0.22と0.16は,それぞれMode1とMode2のみが存在すると思われる位置である(図10).2種類の不安定モードを分離することによって,他方の影響を受けない位置を選択することが初めて可能になった.なお,高さZは平均流速分布から求められる境界層の特性厚さδを用いて無次元化した.振幅分布は,Y=0.22の分布に比べY=0.16では最大振幅より高い位置で振幅が大きくなる傾向にあるが,両者はほぼ一致した.また最大振幅をとる高さもほぼ一致した(図11a).しかし,撹乱伝播理論4)による予測では,C-FモードとS-Cモードの振幅分布はよく似ていること,振幅の最大値は初期振幅に依存することから,撹乱の不安定性を同定する場合あまり参考にはならない.一方,位相分布は,両モードで大きく異なる傾向を示した(図11b).Y=0.22では境界層の外縁から壁面の近づくにつれ位相遅れφが急激に大きくなり,その差は計測した範囲で80°に及んだ.それに対し,Y=0.16ではほとんど変化しなかった.
 安定解析の結果との比較においては一様流レイノルズ数や計測位置が一致していないけれども,振幅分布形状も最大振幅の高さもよく一致していることがわかる.位相分布についてもC-Fモードでは両者は非常によく一致している.しかしS-Cモードの境界層内層と外層における位相差は一致するけれども,その符号は安定解析の結果と逆の傾向を示している.この原因として,一様流レイノルズ数,比較しているコードおよびスパン位置が異なるだけでなく,本実験ではC-Fモードに着目しているためにS-Cモードに対しては最も不安定な周波数撹乱の位相分布を比較していないこと,さらには2つのモードの干渉を避けるためにS-Cモードが最大となるスパン位置を選んでいない等が挙げられる.S-Cモードの位相分布の勾配がスパン方向に変化する可能性があることが数値計算により示唆されている10)ことから,S-Cモードの観測位置が重要である可能性が高いが明白な原因究明は今後の課題である.以上を考慮してMode1がC-F不安定に,Mode2がS-C不安定によって増幅したものと推測しても良いように思われる.

図11: 分離された撹乱の境界層方向の振幅(a)および位相分布(b).
Λ=50゜, R Q= 0.26×106θ=29゜,Y=0.16および0.22,f =440Hz .