ここで、同時刻における流線関数の時間発展のアニメーションを示す。アニメーションの時刻頃の流線関数の擾乱場(図の右上)の形を見ると、固有モードと同様にsin型順圧シアを弱める構造が確認できる。また、図15の時刻頃のグラフの傾きより、同時刻の波数1の順圧成分の発達率は約7〜8であり、これは順圧平均流の波数1の固有モードの発達率(8.06)と整合的である。よって、時刻頃における波数1成分の順圧擾乱が順圧不安定によって励起されたものであることが確かめられた。
初期のsin型シア流には不安定な順圧固有モードは存在しない(古川 & 新野(2006)[4])。不安定な順圧固有モードがいつ現れたのかを調べるために、以前の各時刻において順圧平均流の線形安定性解析を行った。その結果、ロール状対流が発達し始める時刻以降には順圧不安定なモードが存在した。さらに、完全に2次元的なロール状対流(これは初期擾乱に方向に波数1の微小渦度擾乱を与えない場合に得られる)に対しても同様の線形安定性解析を行い、各時刻で固有値を比較したところ、時刻頃までは高精度で一致した(表1)。このことから、時刻頃にロール状対流が発達し始めてsin型の順圧平均流が歪んだことによって不安定な順圧固有モードが現れたことが分かる。また、時刻での固有値(8.06)が2次元ロールの順圧固有モードの固有値(4.77)よりも大きくなっているのは、波数4,5の擾乱の発達に依って更に順圧平均流が大きく歪むからである。
時刻以前にも不安定な順圧固有モードが存在するにも関わらず順圧不安定が生じないのは、その発達率が非常に小さいからである。図13の時刻〜の波数1成分の発達は不安定な固有モードに対応し、これが時刻頃に波数4,5の重ね合わせによって急激に増加して時刻に至る。ただし、この波数4,5の重ね合わせによる波数1の発達は、最終的に波数1が卓越することに対して必須というわけではない。これについてはAppendixで述べる。
以下では、この系における順圧不安定について更に考察を加える。