4.3.1 基本流の順圧安定性について

このように、$ L_x=L_y$かつ$ m=1$というのは非常に特殊な状況である。ここで求めた$ m=1$の順圧固有モードは非粘性の場合には非特異中立モードになるものである。したがって、非粘性の場合には$ m<1$の不安定モードが存在する(例えば、新野(1981)[5]を参照)。今考えている系には粘性があるが、$ m$が1よりある程度小さい場合には実際に不安定モードが存在する。図16(右)は$ m=0.995$で線形安定性解析を行った結果である。このとき発達率は正となり、擾乱の波長を僅かに大きくするだけで順圧不安定が生じることが分かった。

図16: $ m=1$ (左)、 $ m=0.995$ (右)のときの順圧固有モード
\begin{figure}\begin{tabular}{cc}
\includegraphics[trim=50 125 78 220,clip,scale...
...m=170 115 190 85,clip,scale=0.395]{img/lxly/M1-xz.ps}
\end{tabular}
\end{figure}

時間発展では、ロール状対流の発達によって初期のsin型水平シアが歪み、不安定な順圧固有モードが現れた。このように、初期のsin型水平シア流が僅かに歪むだけで順圧不安定が生じ得ると考えられる。そこで、次式のように僅かにシアが歪んだ基本場について線形安定性解析を行った。

$\displaystyle v_B=Re\,L_x\left\{\cos\left(\frac{2\pi }{L_x}x\right)+\varepsilon \cos\left(\frac{2\pi }{L_x}\cdot 3\,x\right)\right\}$ (24)

$ \varepsilon =\pm 0.05$のときのシアの形は図17のようになる。点線は元のシアである。

図17: $ \varepsilon =0.05$ (左)、 $ \varepsilon =-0.05$ (右)のときのシアの形
\begin{figure}\begin{tabular}{c}
\includegraphics[trim=15 25 8 10,clip,scale=0.6...
...=15 25 8 10,clip,scale=0.64]{img/lxly/cos-E005-re.ps}
\end{tabular}
\end{figure}

その結果、$ \varepsilon $の正負に関らず、発達率が正の順圧固有モードが得られた。このことから、シアが僅かに歪んだだけで順圧不安定が生じ得ることが分かる。図18$ \varepsilon =0.05$,$ -0.001$のときの$ \omega _3'$の分布である3。特に、$ \varepsilon =-0.001$のときの分布は、古川 & 新野(2006)[4]の図5,d)によく似ている。

図18: $ \varepsilon =0.05$ (左)、 $ \varepsilon =-0.001$ (右)のときの順圧固有モード
\begin{figure}\begin{tabular}{cc}
\includegraphics[trim=50 125 78 220,clip,scale...
...170 115 190 85,clip,scale=0.395]{img/lxly/E005-xz.ps}
\end{tabular}
\end{figure}

以上より、$ L_x=L_y$という設定が、初期のsin型順圧シアについては順圧不安定は起こり得ないが、僅かに順圧シアが歪むだけで順圧不安定が生じ得るという特殊な状況を与えていることに注意したい。

SAITO Naoaki
2008-03-07