〔巽〕:流体力学の基礎教育ということを考えますとき, まず現在の大学で, 流体力学関係の講義が, 理科系, 工科系, 生物科学系でどのように行われているかが知りたいのです.
私は, 京都大学では理学部の物理におりまして, 物理科学系の 3 回生を相手に, 「流体力学」 の 1 年間の講義をやってまいりました. ところが, 今はこの種の講義が, 「連続体」 という名称で, 1 年あるいは半年の講義になっているとも聞いております. そうしますと, 所属と経歴もさまざまなご出席の方々から, どういうカリキュラムで, どういう題材で, どういうタイトルで講義をしておられるかということを伺えればと思います.
もう一つの問題は, 話を 「流体力学」 に限りますと, これまでの教え方が大きく分けて二通りあることです. 一つは, ほとんど完全流体の話をして, 最後に圧縮性と粘性をお話程度につけ加えるスタイル. もう一つは, 最初に 「連続体」 から入って, すぐ 「弾性体」 と 「粘性流体」 に進むスタイル. この場合は, 流体としては粘性流体から入って, 完全流体は非粘性流体として取り扱う.
この二つのスタイルがありまして, 私はどちらかといえば, 「連続体」 から入って, 流体では初めから粘性流体で, ナビエ・ストークス方程式から始めるという方法をとっておりました. これは, 粘性流体が現実性をもった流体であり, 完全流体はむしろ不完全な流体モデルであるという見方からです.
最後にもう一つ付け加えさせて頂きますと, 今後の問題とも関連しますが, 「流体力学」 の講義の中でどれだけのトピックスをカバーするかということです. ここで大事なことは, そのトピックスの持つ概念ですね. それをどれだけ 「流体力学」 の基礎教育の中に盛り込み, 若い人に伝えるかということがあります. とくに, 今世紀の後半になってから発展した非線型波のソリトン, 力学系としての 「流体」 の不安定性とカオス, それから, 乱流の構造としてのフラクタル. これらは全部, 「連続体」 としての 「流体」 に関わる新しい概念ですが, 今後の 「流体力学」 の講義では, そこまで話が伸びないといけないのではないかと思います.
|