座談会「流体力学の基礎教育」

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〔酒井〕:先ほど木村先生から京大の紹介をせよというお話だったんですが, 残念ながら, 私はふまじめな学生でして, 学生時代, あまり講義に出たことがないんです. 特に, 物理の講義はほとんどでていませんでした. 単位はとりましたけれど. ほんとうは巽先生の講義を聞かなきゃならなかったかもしれないんですが (笑), 巽先生の 「流体力学」 は本で読ませていただきました.
 教養部時代は比較的まじめに講義に出ていたんですが, 物理の講義に行ったら, いきなりローテーションとダイバージェンスが出てきまして, わからないので, 「先生, ローテーションって何ですか」 って聞いたら, 「これはオペレーターですよ」 という答えが返ってきた. 「ローテーションとオペレーターは何ですか」 と言ったら, 「だから, オペレーターだってば」 と言われまして……それから講義に出なくなりました.
 私は, 旧教養部に所属しまして, そこで大学改革に巻き込まれてしまいました. 教養部がなくなった結果どういうことが起こったかというと, 一言で言えば 『大学教養レベルの理科系の基礎知識』 という概念が崩壊したわけですね. つまり, 代数とか, 解析とか, そういうことを知っているということが前提の, 流体力学のような講義は 『足』 (基礎) がなくなっちゃった. 基礎的な講義そのものがなくなったわけではないんですが, 『理系のW先生なら常識として知っているはず』 という前提がなくなってしまったわけです. ということは 『流体力学を勉強するには○○と××を勉強しておきなさい』 ということを, 本当に流体力学を勉強する 2 年くらい前からいわなきゃならない. 問題は, たとえば 『流体力学を勉強しよう』 という目的意識を, そんな早い段階で, どれだけの学生がもっているか, ということです.
 私が今, 何をやっているかというと, とにかく, 学生に自分で目標をみつけさせること. 実験でも, 学生にテーマをあたえるんじゃなくて, やりたい実験をしなさいと言う. とにかく, 学生が 『何か』 に興味をもってくれなければ, 勉強の道筋が決まらない.
 もう一つ, 講義としては主として 2 年生向けに 『地球流体力学』 というのをやっています. こちらは 2 年生にはちょっと難しすぎるので, 『地球流体力学』 を教えるというよりは, 『地球流体力学』 を勉強するには何がいるかということを教えることが目的です. 『目標を理解させる』 といえば聞こえはいいけれど, 要するに, 学生には理解できないまま, とにかく先の方まで突っ走ってしまう. それだけではあんまりだ, というので, せめてイメージをつかんでもらおうと Fortran の数値実験の実習を入れていたのですが, 情報教育から Fortran がなくなっちゃって, こちらも崩壊しています.
 結局, どういう教育をすべきか, というビジョンもなく教養部という枠を取っ払っちゃったものだから, 教え方を一から考えを直さないといけない.

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