座談会「流体力学の基礎教育」

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〔巽〕:一次元の 「水力学」 が場としての 「流体力学」 と区別して取り扱われるのは, 土木の分野なのですね. 水力学というのは一次元流の扱いが主である. これはその分野での必要性の問題でしょう. 日野さんは一次元流は大事で, ベルヌーイの定理に終わるものではないという立場ですが, 土木の基礎教育としてはおそらくそうなのだと思います.
 よく個体発生は系統発生を繰り返すといいますが, 流体力学も, ダ・ヴィンチの頃から見たら, 水力学, 完全流体, 粘性・圧縮性と来ているんですから, 個人の頭の中でもその道をたどるのは, 一番自然だと思います.
 ただ問題は時間です. 今の流体力学でホットなトピックスである粘性の入った不安定性とか乱流までいかないと, とても環境とか, 地球とか, 生命体とかいうところまでつながらない. 「流体力学」 と名のつく講義は, そこまでたどりつくカリキュラムでなければいけないと思うんです. ただ, 時間的制約で, 止むを得ず, 例えば, 一次元流は 1 回か 2 回にする, 完全流体のポテンシャル流に深入りしないなどの方法が考えられます. 逆に, 完全流体で一番大事なのは, 非定常運動におけるバーチャルマス (virtual mass) という概念だと思います. これは見かけの質量, あるいは有効質量とか, 付加質量とか訳されていますが, なぜ我々が泳ぐときに体が重いのかとか, なぜ船は一寸した接触でも大きい被害を生じるのか, なぜ空気中で落としても壊れない茶碗が水の中で簡単に壊れるのかとかいったような経験と結びついています. これは完全流体でいけます. ですから, 完全流体は, バーチャルマスだけやってもらえば, ポテンシャル流は要らない. むしろ, 渦定理とか, 渦のポテンシャルということでやればいいので, 延々とポテンシャル流や翼理論をやる必要はないように思われます.
 ですから, 一次元の水力学, 完全流体, 粘性流体というやり方は, 時間さえ十分あれば, 一番自然なやり方です. 自然なやり方というのは, 重複があるから自然なんです. ただ, 時間的制約のために, 例えばこの学科では不安定性, 乱流までは要らないという学科もあると思います. そのときには, 一次元流と完全流体, そのほかは, いわゆる流れ学的な講義でいいと思います.
 いろいろなスタイルのうち, どれをとるかというのは, それぞれの立場でおとりになったらいいんじゃないかというのが私の意見です.


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