5. サーマルの内部機構
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図−18(a) 濃度コンター,流速ベクトル図(1%,5s) |
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図−18(b) 濃度コンター,流速ベクトル図(1%,10s) |
サーマルの内部機構の解明のため,数値計算結果を基に流速ベクトル図と等濃度線図を描いた.
図−18(a),18(b)は,福嶋ら(1999)の塩水サーマルの実験のRun 1(c0 = 1% )のt = 5s,10s の数値計算結果の等濃度線(濃度コンター)と流速ベクトル図を重ねて描いたものである.等濃度線はだいたい半楕円形に近い形状となっており,その中心部ほど濃い灰色で描かれ,高濃度となっていることを示す.この数値計算の結果は,染料で可視化した傾斜サーマルの形状がほぼ半楕円形状となるという従来の実験結果1) とよく一致する.また,流速ベクトルからは,サーマルの先端部で巻き上げ,サーマル上部で進行方向と逆向きの流れ,サーマル後部で巻き込みの流れが形成されることがわかる.図−18(a),18(b)の比較から,時間の経過とともに,周囲水への拡散あるいは混合の結果,塩分濃度が減少することがわかる.このことは濃度の大きさを表す濃淡が減少し,外側の等濃度線の大きさの範囲が広がっていることで分かる.
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図−19(a) 濃度コンター,流速ベクトル図(3%,5s) |
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図−19(b) 濃度コンター,流速ベクトル図(3%,10s) |
図−19(a),19(b)は,Run 2(c0 = 3% )のt = 5s,10s の数値計算結果の等濃度線と流速ベクトル図を重ねた図である.Run 1に比べ初期濃度が大きいため,流速ベクトルが長く表示されている.また,同時刻においてサーマルはより大きく発達しているのがわかる.サーマル周辺での流速ベクトルの向きの特徴は,Run 1 (c0 = 3% )のものとほぼ同様である.この場合にはt = 10s (図−19(b))ではサーマルは底面からの巻き上げにより,サーマルの前部が浮き上がりかけているように見える.これは密度の小さな周囲水がフロントの先端下部から連行されており,この範囲で特に希釈が大きくなるためと考えられる.
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図−20(a) 濃度コンター,流速ベクトル図(5%,5s) |
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図−20(b) 濃度コンター,流速ベクトル図(5%,10s) |
図−20(a),20(b)は,Run 3(c0 = 5% )のt = 5s,10s の数値計算結果の等濃度線と流速ベクトルを重ねた図である.この図では他の図に比べても流速ベクトルはもっとも大きくなっており,サーマルの大きさも最も発達していることが示される.t = 10s ではサーマルは浮き上がり,ほぼ完全に底面から離れている.濃度コンターから,全体的にサーマルがその中心部よりやや上の位置を核とした大規模な循環流を形成していることが示される.また,流下するに従って,サーマルが発達してゆき,循環流の中心はさらに底面から離れていく傾向にある.