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: 6. 結論 : 5. 統計量による解析 : 5.3 エネルギー変化について

5.4 エネルギースペクトル

速度場 ${\mathbf u}({\mathbf x})$$z$方向についてスペクトル分解し、 異なる構造間のエネルギーの移動について考察する。

16は流れ場のエネルギースペクトル $\tilde{E}(k_z)$である。 ここで波数として、 秩序渦に対して一様な性質を持つ$z$方向の波数$k_z$を取っている。 この図から、撹乱エネルギー($\vert k_z\vert>0$)の時間について増加が見てとれる。

図 16: エネルギースペクトル。
\includegraphics [width=0.45\textwidth]{ekztest.eps}

撹乱成分($\vert k_z\vert>0$)に対応する全ての波数において時間増加がみられる。 このことから、撹乱成分に供給されるエネルギーは、粘性によって減衰されるエネ ルギーよりも多いと言える。 この原因として、秩序渦のエネルギー $E(k_z=0)\sim O(10^{1})$が他の波数成分に比べて圧倒的に大きいこと、 この成分だけが時間に対して減少しているこ とが あげられる (図12,14)。

また図16の高波数成分のエネルギー増加から、 微細スケールの構造が活性化されたことが伺える。 このことは可視化ではフィラメント構造の数密度の増加として現れている(図4)。 その結果期待されるのは、フィラメント同士が相互作用し、 エネルギーの逆カスケードがこのスペクトルに現れることである。 しかし、この図からは確認できなかった。 これは相互作用による影響が微小であるため、$k_z$方向のスペクトル分解だけで は 捉え切れなかったものと考えられる。

17は渦核内部及び外部のエネルギーを$k_z$についてスペクトル分 解し、 波数領域を3つに分け、それらに含まれるエネルギーの時間変化を示したものである。 渦核内部のエネルギー $\tilde{E}_{c}^{j}(t)$

\begin{displaymath}
\tilde{E}_{c}^{j}(t) \equiv \frac{\sum_{k_z\in K_j}\int_{0}...
...int_{0}^{r_0(t)} \int_0^{2\pi} r{\mathrm d}r{\mathrm d}\theta}
\end{displaymath} (14)

であり、渦核外部のエネルギー $\tilde{E}_{e}^{j}(t)$
\begin{displaymath}
\tilde{E}_{e}^{j}(t) \equiv \frac{\sum_{k_z\in K_j}\int_{0}...
..._0(t)}^{3r_0(t)} \int_0^{2\pi} r{\mathrm d}r{\mathrm d}\theta}
\end{displaymath} (15)

ここで$j$は波数領域を示し、分子にある$k_z$についての和 $\sum_{k_z\in K_j}$は、 $j=L$では低波数( $0<\vert k_zr_0\vert< 4.0$), $j=M$では中波数( $4.0\le\vert k_zr_0\vert<10.0$)、 $j=H$では高波数( $10.0\le\vert k_zr_0\vert$)の範囲について行なった。

図17: 渦核内外でのエネルギーの時間変化。渦核内部のエネルギー:1(赤) $\tilde{E}^{L}_{c}(t)$、 2(緑) $\tilde{E}^{M}_{c}(t)$、3(青) $\tilde{E}^{H}_{c}(t)$ 。渦核外部のエネルギー: 4(ピンク) $\tilde{E}^{L}_{e}(t)$、5(水色) $\tilde{E}^{M}_{e}(t)$、 6(黒) $\tilde{E}^{H}_{e}(t)$
\includegraphics [width=0.45\textwidth]{all5a.eps}

渦核内の低波数エネルギー $\tilde{E}^{L}_{c}(t)$が最も大きな値を持ち、 $t/T= 3\sim 4$まで増加した後、その値は飽和することがわかる。 またそれと同時期に渦核内の中波数成分 $\tilde{E}^{M}_{c}(t)$、 高波数成分 $\tilde{E}^{H}_{c}(t)$の増加が顕著になる。 一方、渦核外の範囲での低波数成分 $\tilde{E}^{L}_{e}(t)$の増加率は、 渦核内部と比べて低い。 中波数成分 $\tilde{E}^{M}_{e}(t)$・高波数成分 $\tilde{E}^{H}_{e}(t)$の振舞いは、計算開始直後からエネルギーの増加が示されている。

渦核内の低波数エネルギー $\tilde{E}^{L}_{c}(t)$の増加は、 この領域に発生した長波長撹乱である渦波(図5)の発生 を捉えたものと言える。 その値が飽和する時間$t/T= 3\sim 4$では、 渦核内で中波数領域 $\tilde{E}^{M}_{c}(t)$ 及び高波数領域 $\tilde{E}^{H}_{c}(t)$でのエネルギーの増加がはじまっている。 これは渦核内における構造の微細化が示すものであり、 渦核の崩壊が$t/T= 3\sim 4$ではじまったものと考えられる。

一方、渦核外では低波数成分の増加は渦核内に比べて抑えられている。 これは、渦核内で発生した渦波のエネルギーが、渦核外へ漏れ出さないことを示す。 また中波数領域は図2における特徴的なフィラメント構造に 対応している。 そのエネルギーは計算開始直後から増加し、 秩序渦の崩壊との関連は見られない。 このため、この波数領域での渦運動は主として 秩序渦の差分回転によるものと考えられ、RDTによる解析が有効であると言える。 しかしこの波数領域では、RDTによる解析解[8]は 波数及び時間に複雑な依存性を持つため、 この論文の計算結果と比べることは難しい。 一方、高波数成分のエネルギーも時間と共に増加がはじまり、 秩序渦の崩壊との関連も見られない。 エネルギーの増加は時間の自乗に比例し、RDTの漸近解[8]と一致する。 このため高波数領域の渦運動は秩序渦の差分回転によって支配されていると言える。



Naoya Takahashi 平成14年9月17日