付録 D. 用いた積雲パラメタリゼーションの簡単な解説 [prev] [index] [next]

付録 D.1 Kuo スキーム

Kuo(1974)のスキームは, 台風の様にO(1,000km)スケールの大気運動と積乱雲活動が密接に連係する現象の存在に注目し, 積乱雲は集団としては下部対流圏の風の水平収束に対応して生じると想定したスキームである. 以下に概要を述べる. 実装の詳細についてはSWAMP Project (1998)に譲る.

  1. 雲の出来方についての仮定:
    1. 積乱雲集団は大気の温度構造が条件付き不安定である格子点で生じる. 具体的には, 地面近くの大気塊を断熱的に上向きに仮想変位させた場合の温度が, 各高度における大気温度を上回ることが条件である.
    2. 積乱雲集団の活動度(上向き質量流束)は各格子点での水蒸気水平収束の鉛直積分に比例する. ただし, この積分が負になる格子点では積乱雲集団は生じない.
  2. 雲の構造についての仮定 :
    積乱雲の内部の温度は上記の断熱的変位で見積もられる温度であり, 飽和していると仮定する.
  3. 雲がモデルの各格子点の変数に与える効果についての仮定:
    積乱雲集団の総合的効果により, 各格子点の大気は加熱または加湿される. 加熱と加湿の鉛直分布は, 各格子点で陽に表現されている大気の温度または湿度と 積乱雲内部の温度または湿度との差に比例すると仮定する. また加熱と加湿の総量は, 雲内外の温度差・湿度差の鉛直積分依存して定めるが, 加熱は雲外の湿度が高いほど強く, 加湿は雲外の湿度が低いほど強くなる.

大循環モデル中の熱帯大気における大まかな振舞は以下のようになる:
熱帯大気はほぼ至るところで条件付き不安定でありるので, 仮定1aによるパラメタ化された積乱雲集団活動があまねく発動する. その活動度は, 仮定1bにおいて水蒸気が大気下層に集中していることを考慮すると, 実質的には, 大気下層の水平収束の積分に比例する. さらに大気の連続の式を考慮すれば, これは湿潤な大気層の上端での鉛直速度に比例することになる. また熱帯においては大気温度は比較的水平一様であるので, 実質的には, 仮定3により加熱の鉛直分布はほぼ水平一様となる. ただし, 湿度の非一様は顕著であるので, 湿度が高い格子点においてのみ大きな加熱が生じる.

最後に述べた湿度への強い感度を除けば, 上の結果は, 大気下層の鉛直速度に大体比例した強さで おおむね一定の鉛直分布の加熱が生じる,とまとめる事ができる. これは wave-CISK の加熱定式化, たとえば式(A.6)と良く似ている. このことが, Kuo スキームを用いた大循環モデルにおいて wave-CISK 理論の結果と 共通する振舞が現れやすい理由である.

 

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