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4.2 赤道降水量の経度時間断面・スペクトル

ここでは湿潤対流調節スキームを用いた各実験における降水量の赤道上経度時間分布が, 放射冷却の鉛直分布の違いに対してどのように応答するかを調べる. Wheeler and Kiladis (1999) に従って強調した南北対称成分の 東西波数-振動数パワースペクトルも吟味する (計算手順は, 付録B.2 を参照のこと).

赤道上の降水活動の時空間構造

図4.4: 湿潤対流調節スキームを用いた4つの実験における1000日目から1100 日目までの 赤道上の降水量の経度時間断面図(単位は [kg m-2 s-1]). (左上) adj-a, (右上) adj-b, (左下) adj-c, (右下) adj-d.

図4.4 は赤道上の降水量経度時間断面図である. いずれの実験においても, 降水活動は1日程度の寿命と空間解像度の限界に近い 小さな空間スケールを持つイベントを単位として生じていることがわかる. これらのイベントは, 前節の Kuo スキームを用いた場合の結果と同様, 格子点スケールの降水活動と呼ばれる. 前節の Kuo スキームを用いた実験と比較して, 対流調節スキームを用いた実験での格子点スケールの降水活動の時空間分布は, かなりランダムであるように見える. ただし, もっとも上層加熱を強くした実験 adj-d では, かなりはっきりと kuo-c あるいは kuo-d でのものと似た 東進する格子点スケールの降水活動の系列を認識することができる.

赤道上の降水活動の時空間スペクトル

図4.5: 湿潤対流調節スキームを用いた4つの実験における 赤道付近降水量の南北対象成分の東西波数-振動数パワースペクトル. (左上) kuo-a, (右上) kuo-b, (左下) kuo-c, (右下) kuo-d. データは図4.4 に同じ. Wheeler and Kiladis (1999) に従った強調を施してある (計算手順は, 付録B.2 を参照のこと). 図中の実線は奇数のモード番号を持つ赤道波の分散曲線. 等価深度の値として h = 12, 25, 50, 100, 200 [m] を用いている.

図4.5に赤道上での降水の 赤道対称成分の東西波数-振動数パワースペクトルを示す. これをみると, 実空間における降水分布のランダムな印象とは対照的に, kuo スキームを用いた場合と同様の特徴がはっきりと見出せる. すなわち, いずれの実験においても, ケルビン波分散関係上にのる東進するシグナル, ロスビー波分散関係上にのる西進する低波数シグナル, 非分散的に西進する高波数シグナル, 慣性重力波領域に存在する高周波のシグナルが存在している.

4つの実験の結果を比較すると, 東進するケルビン波上に見出されるシグナルは 上層の冷却が弱い実験 adj_a, adj_b より, 上層の冷却が強い実験 adj_c, adj_d の方がやや強い. この傾向は kuo スキームを用いた実験と共通している.

非分散的に西進する高波数のシグナルの速度は, kuo スキームの場合とは異なり, 大気下層の平均東西風の速度よりも速い. たとえば, 実験adj-c において, この成分の位相速度は約7.5 [m s-1]であるのに対して, 大気下層の風速は約 5[m s-1]である. この差の原因はよくわかっていない.

降水活動に対応する赤道波の位相速度を説明する等価深度は 20 [m]程度であり, kuo スキームの場合(3.2節) と比べてもさらに小さい. このことは, kuo スキームの場合と同様, 降水をともなう擾乱において 凝結加熱と波動が相互作用していることを示唆している.

 

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