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3.2 赤道降水量の経度時間断面・スペクトル

ここでは Kuo スキームを用いた各実験における降水量の赤道上経度時間分布が, 放射冷却の鉛直分布の違いに対してどのように応答するかを調べる. Wheeler and Kiladis (1999) に従って強調した南北対称成分の 東西波数-振動数パワースペクトルも吟味する (計算手順は, 付録B.2 を参照のこと).

赤道上の降水活動の時空間構造

図3.4: Kuo スキームを用いた4つの実験における1000日目から1100 日目までの 赤道上の降水量の経度時間断面図(単位は [kg m-2 s-1]). (左上) kuo-a, (右上) kuo-b, (左下) kuo-c, (右下) kuo-d.

図3.4 は赤道上の降水量経度時間断面図である. いずれの実験においても, 降水活動は1日程度の寿命と空間解像度の限界に近い 小さな空間スケールを持つイベントを単位として生じていることがわかる. これらのイベントは格子点スケールの降水活動と呼ばれる (HS86). 格子点スケールの降水活動は時空間分布はランダムに生じるのではなく, 3日から20日程度の期間にわたってトレースできる系列として生じている. さらにこれらの系列の生じ方もランダムではなく, 大規模かつ長周期の濃淡が認められる. 東西波長が経度で100度程度で, 特徴的な時間スケールが 30日程度の降水系列の強度の強いところが見られる.

格子点スケールの降水活動の系列およびその大規模な濃淡の現れ方は, 放射冷却の鉛直構造に依存している. すわなち, 放射冷却の分布が下層で強いkuo_aおよびkuo_bにおいては 降水イベントの系列は専ら西進し, 降水系列の大規模な濃淡は東進する一方, 放射冷却の分布が上層で強いkuo_cおよびkuo_dにおいては, 降水イベントの系列は専ら東進し, 降水系列の大規模な濃淡は西進しているように見える.

なお,  Kuo スキームを積雲パラメタリゼーションに用いた Numaguti and Hayashi (1991) における赤道上の降水経度時間断面図と比較すると, 本実験においては, 格子点スケールの東進降水系列の数が少なく, 東西波数1のパターンが強い (付録C).

赤道上の降水活動の時空間スペクトル

図3.5: Kuo スキームを用いた4つの実験における 赤道付近降水量の南北対象成分の東西波数-振動数パワースペクトル. (左上) kuo-a, (右上) kuo-b, (左下) kuo-c, (右下) kuo-d. データは図3.4 に同じ. Wheeler and Kiladis (1999) に従った強調を施してあり, 単位は無次元である). (計算手順は, 付録B.2 を参照のこと). 図中の実線は奇数のモード番号を持つ赤道波の分散曲線. 等価深度の値として h = 12, 25, 50, 100, 200 [m] を用いている.

図3.5に赤道上での降水の 赤道対称成分の東西波数-振動数パワースペクトルを示す. 東進シグナルに関しては, その卓越波数に相違はあるものの, 東進速度は実験によらず 22 [m s-1]程度であり, 等価深度約50[m]のケルビン波の分散関係に対応している. 西進シグナルに関しては, 注意してみると, いずれの実験でも, 波数1-6の低波数の成分とより高波数の成分とで西進速度が異なるように見える. 高波数成分の速度は非分散的であり, 各実験とも波数に依存せず, 3 - 5[m s-1]程度の大きさを持っている. これは大気下層の東西風速 (図3.2) と対応している. 低波数成分の西進速度は, これよりも若干遅くなっているようであり, 先の東進シグナルに対するケルビン波と同じ 等価深度50[m]のロスビー波の分散関係と対応しているように見える. これらの東進・西進シグナルに加え, 図3.5 には, より高い周波数の成分を見ることができる. 高い周波数の成分は, 対流圏鉛直第一モードの等価深度等200[m]の慣性重力波よりは 浅い等価深度の慣性重力波の領域に存在する.

降水活動に対応する赤道波の位相速度を説明する等価深度は 対流圏鉛直第一モードの等価深度よりずっと小さい. このことは, 降水をともなう擾乱において 凝結加熱と波動が相互作用していることを示唆している.

 

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