座談会「流体力学の基礎教育」

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〔大橋〕:私どもの学部では, 1 年生のときにプロジェクトというのをやらせるんですね. これはグループでも, 一人でも自分で見つけたテーマについて, 教官が 1 年間にわたってサポートしながら, 最後に論文を書くんです. その途中の方法論とか, 問題のテーマの掘り下げとか, そういうのを 1 年間やるんですけど. それをやらせたのとやらせないのとでは随分違うということが分かりました.
 今の学生は, 自分の興味のあることしか, 最初にまず飛びつかないんですね. 研究の入り口はある程度自由さが必要であるということが一つあります.
 それから, 先ほど谷田先生がおっしゃった数学の問題なんですけれども, 日本は応用数学という概念がないんですね. 例えば, 我々もそうなんですけど, どこで必要な数学を勉強したかというと, 昔, 岩波の古い応用数学の本や, アメリカのワイリーとか, いろいろなエンジニアリングマスマティクスで大学院に入ると勉強するか, どっちかなんですね. そうすると, 純粋な数学者が書いたような本と, あるいは純粋数学を出た人たちが教養部で教えているのじゃなくて, もう少し応用数学という視点からの先生も必要だし, あるいは教科書も, ほんとうは必要だったんじゃないか.
 日本は, 特に応用数学という概念がほとんどありませんから, まず流体の基礎の部分の大切な部分が欠落してしまっていると思います. ところが, 今は, 本来, 応用数学というものが体系的にでき上がって, いろいろな分野 ── 情報科学や経済なんかもそうですけど, 活躍しなければいけないときだと思うんです. ところが, 応用数学という概念がないおかげでいろいろな弊害が出ているんですけれども, それがどういうわけか情報のほうにいろいろなもので走っちゃっているんですね. 情報科学というのが, 日本の場合は情報処理のリテラシーが中心で, 中身そのものを専門分野と結びつけてやるというところまでまだ残念ながら行ってないというところがあります. 今後流体力学の教育とも複雑に関係してくるので, 数学と同じで, 純粋数学から応用数学がうまく生まれなかったのと同じような現象が情報科学でも先行き起こる可能性はあるような気がしています.


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