結果 (6) 回転系における対流のレジームの遷移と水平スケール:2次元数値計算 結果 (5) バランスの検討 (1)

図8 に示したようなセル数の急増が, どのようなバランスのもとに成立しているかを調べるために, x 方向の運動方程式の圧力傾度項, 粘性項, コリオリ項を比較する. それぞれ (35) 式の右辺第1項, 第2項, 第3項である. Ra = 104Ra = 106 について, 各項の領域 1.0 ≦ x ≦ 7.0 における 最大値の高さ分布を 図9 に示す. 特に, Ra = 106 のときについて 青色のコリオリ項を見ると, Ta = 105 あたりから大きくなり, Ta = 106 では完全に圧力傾度項とバランスしていることがわかる. 一般に, Ta が小さいときには圧力傾度項とバランスするのは 粘性項または非線型項であるが, Ta が大きいとコリオリ項がバランスする. 圧力傾度項と粘性項がバランスするパラメター領域を「粘性レジーム」, 非線形項がバランスするパラメター領域を「慣性レジーム」, コリオリ項がバランスするパラメター領域を「地衡風レジーム」とよぶことにする. Ta が小さいときは, 「粘性レジーム」あるいは「慣性レジーム」にあるが, これらをまとめて「粘性・慣性レジーム」とよぶことにする.

レイリー数が低い Ra = 104 の場合は, 非線形項の寄与が小さく, 線形論が近似的に適用できるようになるだろう. 補遺A に示したように, 線型論の場合には, 粘性項が重要な粘性レジームからコリオリ項が重要な地衡風レジームへの遷移が Ta = 2630 付近で生じる. 図9 では Ta = 103 から Ta = 104 にかけて コリオリ項の寄与が大きくなっており, 線形論に対応していると考えられる. 一方, レイリー数が大きな Ra = 106 のときには, 上で見たように遷移が Ta = 105付近で生じており, 線型論のときよりもはるかに大きい. すなわち, 中立曲線よりも十分レイリー数が大きな領域では, 地衡風レジームへの遷移が線型論よりも大きなテイラー数のときに生じている.

Ra = 106 の場合について 図8 に示したような乱流的なふるまいは, 地衡風レジームへの遷移の途中に生じていることがわかる. すなわち, 粘性・慣性レジームから地衡風レジーム への遷移の途中に乱流的なふるまいを経て, 地衡風レジームに入るとセル数が急増することになる.

図9. Ra =106 (右上) と 104 (右下) のときの各項のバランス. 赤線が圧力項, 緑線が, 粘性項, 青線がコリオリ項を示す. anim_veq.gif (97937 バイト)


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