粉体層上の動摩擦係数測定実験とその流体力学的考察

はじめに

では、岩屑なだれを岩塊の滑り落ち運動であるとみなした場合、その動摩擦係数が低いことの原因として何が考えられるであろうか。

岩屑なだれ堆積物の特徴の一つに、岩塊をとりまくように、マトリックスが存在していること(図2)が挙げられる(宇井, 1987)。このマトリックスを構成している物質は、その構造から流走中には流動化し、流体的に振舞っていたものと考えられる。

そこで、本論文では、このマトリックスの存在が岩塊を滑りやすくしている原因ではないかと考え、粉体層上を滑走する剛体の動摩擦係数を測定し、そのメカニズムに関して流体力学的な考察を行った。



 2 セントへレンズ山の岩屑なだれ堆積物に見られる内部構造。

実際の岩屑なだれでは、その底部もしくは接触している地面が破砕しマトリックスが生ずるなど、起こっている現象は複雑であろう。しかし、岩屑なだれ全体を粒子流とする観点からの実験やシミュレーションはなされているが(Davies, 1981; Campbell et al., 1995他)、マトリックスを粉体層とし、その上を岩塊が滑走するという観点からの実験はなされていない。また、そもそも粉体層上の摩擦に関するメカニズムも不明なので、今回は静止した粉体の上を剛体円盤が滑走するという単純な場合について議論をする。


粉体層上の動摩擦係数測定実験とその流体力学的考察