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: 2. 数値計算方法 : 秩序渦と乱流場との相互作用について : 秩序渦と乱流場との相互作用について

1. はじめに

大規模な秩序渦構造が乱流場と相互作用する現象は、 自然界や工学上の問題として頻繁に現れる。 剪断乱流中では二次元的な大規模渦が周辺乱流場と相互作用して3次元化が促進される例や、飛行機の翼端から発生する後引き渦と乱流場との相互作用で崩壊することが観察されている。 このように秩序渦の安定性について解析することは流体 力学的な問題としても興味深い問題である。 ストレイン場によって渦核が 楕円型変形された秩序渦は渦波の共鳴的励起現象(楕円型不安定性)によって不安定 化する[1]。

一方Lamb-Oseen渦[2,3]は Navier-Stokes方程式の線形安定な軸対称解であるが、 乱流との相互作用によって不安定化することが報告されている。 Melander and Hussain[4]は中Reynolds数において、 秩序渦と撹乱場の相互作用を直接数値計算(Direct Numerical Simulation, DNS)を用いて調べた。 仮想乱流として高波数にランダムな成分を持つ撹乱場と 軸対称渦との相互作用をスペクトル法を用いて解析した。 その結果、渦核に発生する屈曲波の生成と、秩序渦周りでの渦輪の形成とフィラメ ントの偏極化を示した。 またSreedhar and Ragab[5]は高Reynolds 数における秩序渦とランダム場との相互作用をラージ・エディ・シミュレー ション(Large Eddy Simulation,LES)を用いて 解析した。Rayleighの判定条件から線形不安定である 軸対称渦(Taylor渦)が秩序渦に用いられ、ランダムな撹乱との相互作用について解析がなさ れた。その結果大規模構造の変化とフィラメントの成長を示し、秩序渦の屈曲とフィラメントの渦輪状の構造への成長を示した。 この結果について 秩序渦周りに存在する渦輪の役割が着目された。 Marshall[6]は 円柱渦の周りに周期的に渦輪を配置したモデルを用いて 渦輪が引き起こす流れの構造変化について解析を行ない、 渦輪によって形成されたよどみ点における円柱渦からの渦度の放出と、 それに伴うKelvin波の発生を示した。 Abid et al.[7]は 初期に与える渦輪の半径をさらに大きくし、 渦輪が円柱渦に及ぼす局所的な伸張の影響を解析を行なった。 その結果、円柱渦と渦輪との相互作用によって、その内側に反対の符号を持つ 2次の渦輪を誘導すること、この過程は連続して起こることを示した。 またMiyazaki and Hunt[8]は円柱渦と乱流場との相互作用について Rapid Distortion Theory(RDT)を用いた理論解析を行った。乱流場との相互作用による秩序渦 内部の構造変化と渦周辺での乱流場の変形・変質過程について線形理論により解析し、 秩序渦 周辺に発生するフィラメントの成長過程を秩序渦の差分回転から説 明した。また 渦核に低波数成分を持つ非軸対称波が発生すること、乱流場が軸対称化し、そのエネルギーは時間 の2乗で増幅し、半径からの距離$r$$-5$乗で減少することを示した。

本論文では 乱流場中における秩序渦の振舞いをDNSによって再現し、 相互作用によって起こる秩序渦の大規模渦構造の変化と、 乱流場の微細渦構造の渦輪状構造への変化を、 可視化解析と統計解析を用いて捉えることを目的とする。 秩序渦にはNavier-Stokes方程式の厳密解であるLamb-Oseen渦を用い、相互作用によって線形安定な秩序渦にどのような変化が起こるかを調べる。 秩序渦の変形をDNSで扱うことにより、 RDTで捉えられなかった非線形相互作用について解析する。 また初期撹乱には一様等方性乱流を用いることにより、Melander and Hussain[4]では触れられなかった乱流場が持つ特徴的な微細渦構造(ワー ム構造[9])の変形過程を捉える。 これらの秩序渦構造の変化とその相互作用により生ずる非線形過程を、 渦の可視化によって捉えるとともに、秩序渦構造と乱流場との間のエネルギーの移送を統計的に調べる。

2節では計算方法について述べ、その数値計算結果を第 3節で確認する。精度確認されたコードを使って第4節 では秩序渦と乱流との相互作用に特徴的な渦構造を抽出する。その振舞いを統計的 に第5節で考察し、結論を第6節で述べる。



Naoya Takahashi 平成14年9月17日