粒子画像流速測定法と渦運動エネルギーを用いた回転水槽実験で発生する傾圧不安定波の定量化 << Prev | Index| Next >>

2. 実験方法

第2.1節で実験装置、第2.2節で実験結果を記録する装置やPIVについて紹介する。そして第2.3節では、本研究で行っている実験手順と、本稿で検証する実験設定を示す。   

2.1. 装置の概要

本研究の回転水槽実験は、横浜国立大学に設置された二重回転水槽装置を用いる(図2.1)(図2.2)(図2.3)。特別な機能としては、スリップリングを用いた装置内部と外部の間の計測信号のやりとりと、2つの回転円盤である。2つの回転円盤のうち、内側の円盤では実験水槽を回転させて、外側の円盤では実験記録用カメラや測定器を設置して回転させる。この回転円盤はそれぞれ独立して回転させることができるため、実験水槽と同じ回転速度だけでなく、異なる回転速度からも撮影・計測が行える。その機能を用いれば、内側円盤は回転を止めずに実験を続けて、外側円盤だけを停止させて計測器の調整や交換をすることも可能である。

水槽は三層となっていて、一番内側の水槽(内側槽)は半径20mmの円柱、中央(実験槽)と一番外側(外側槽)はリング型の水槽になっている(図2.3)。実験槽のリングの半径方向の幅は66mm、外側槽は27mmであり、その間は4mmの厚さを持つアクリル製の壁で仕切っている(さらに詳しい実験槽の情報は、Tajima and Nakamura, 2005)。外側槽には熱線とサーミスタ温度計とポンプが設置されていて、水を循環させながら実験条件の設定値に自動制御で温める。一方、内側槽には恒温水循環装置(タイテック社製CH-402BF)により実験条件にまで冷却した水が、円盤の回転軸中央を通って内側槽に流れ込むようになっている。



(a) (b)
図2.1: 二重回転水槽実験装置の写真。(a)装置全体の写真、(b)実験水槽とその上部の設置したカメラ。


図2.2:二重回転水槽実験装置の概略図。
図2.3:(a)水槽を上から見た概略図。数字はmm。(b)水槽を横から見た概略図。

2.2. 計測方法

実験槽の水には、トレーサーとしてアルミ粉末を浮かべて、水面で起きている運動を可視化する。トレーサーとなる粉末や粒子には、他の素材(例えば蛍光カプセル)でも試しているが、アルミ粉末で行った場合とPIVの解析結果に差はなかった。本研究では、400回を超える実験を実施することを考えて、入手しやすく安価なアルミ粉末に統一した。用いたアルミ粉末(大和金属粉工業製No.1112)は、平均サイズは30ミクロン、形状はフレーク状、水面拡散面積は7500cm2/gと非常に細かく、流れの追従性も高い。

実験槽の上部には、高感度カメラ(日立電子社製KP-C571)を設置し、下向きに水面を撮影する(図2.1)。水面は、装置の上部にある実験室の蛍光灯でライティングしている。画像データは、スリップリングを通り、随時装置外部に送り記録する。水槽が回転することで、撮影した水面が回転による遠心力の水面上昇で変形することも心配される。角速度をΩ、半径をrとすると、遠心力はrΩ2である。水面の傾きdは、重力gを用いて、d=rΩ2/gとなる。そのため、半径Rでの水面高度の上昇は、。今回の実験で最も速い設定の回転速度12rpm(1分間に12回転)を考えると、遠心力による水面の高さは半径10僂任0.1mm程度上昇すると見積もられる。今回の実験スケールを考えれば、その値は無視できるほど小さいため、水面高度の補正は行っていない。

記録された画像を基に、フローテック・リサーチ社製FtrPIV3を用いて、水面の運動量を算出する。PIVとは、短時間間隔で撮影した2枚の画像の差異から、粒子群の瞬時の流体速度として検出する手法である。本研究で用いたPIV解析のソフトは、解析精度に優れる直接相互相関法を用いており、インテル系CPUの相関計算機能を直接駆動する並列計算による高速化が図られている。解析パラメータは、検査窓サイズ=33×33画素、探索窓サイズ=53×53画素、過誤ベクトル排除とウィンドウデフォメーション機能は用いていない。ウィンドウデフォメーション機能の有無により、得られる瞬時速度には局所的に生じる。しかし、その領域(具体的には後述するジェット領域のごく一部)でも、±10%程度の差異(=±0.8mms-1程度の差異)を生じるだけであり、解析時間の短縮と解析結果の信頼性の観点から、この機能を用いなかった。

本研究では、高感度カメラで撮影された動画を0.33秒間隔で画像に分解し、それらの画像からPIVで0.67秒間隔で運動場を算出している。PIVにより算出される運動場は、水平解像度は1.9mm、速度は0.1mms-1の精度である。但し、上述したウィンドウデフォメーションの機能の有無を考慮すると、ジェット領域の一部ではプラスマイナス0.8mms-1の精度となる。

2.3. 実験手順と実験設定

実験手順を説明する。まず初めに、実験条件の設定値に合わせて、内側槽と外側槽の温度差をつける。実験槽と接する側壁温度が実験設定の温度になったことを確認した後、実験槽に水道水を設定した水深まで入水する。この実験開始までの準備でおよそ2時間を要する。

水槽を回転させた時点を、実験開始の時間とする。内側円盤の回転速度を、実験条件の設定値まで数秒で到達させる。スピンアップ期間(付録1)は、およそ5〜10分程度を要した。その後、約15〜30分間観察する。それ以上の時間で実験を観測しても、結果に大きな変化がなかったことを確認している。これまで様々な実験手順を試しているが、本研究では、時間の区切りが明確な以上のやり方に統一した。

本研究では、実験条件を変えた400回以上の実験を行っているが、その中でも、特徴的な3つの回転水槽実験結果(表2.1)を用いて、解析方法の有効性を検証する。実験1は実験槽の水深は20mm、回転速度は6.0rpm、外側槽35.0℃と内側槽5.0℃にした温度差30.0℃である。実験2は水深40mm、回転速度4.0rpm、温度差15.0℃。実験3は水深80mm、回転速度8.0rpm、温度差20.0℃である。実験1は、明瞭な傾圧不安定波が発生した実験である。実験2は、目視では傾圧不安定波が発生していないと確認できる実験であり、実験3は卓越波数が明確でない、いびつな波形の運動が観測された実験である。

過去の研究(例えばFowlis and Hide, 1965)により、実験設定の無次元数パラメータから、どういった水面運動が発生しているか、目視観測でまとめたレジームダイアグラムが提案されている。本研究で紹介する3つの実験の無次元数は表2.1であり、実験気象学入門(1988)で掲載されているレジームダイアグラムと対応つけると、3つの実験とも定常波動領域に位置する。これは、実験1のみ整合的で、実験2と3は一致しない。しかし、400回以上の実験結果を整理した舛田(2012)は、実験層の水深が深くなるにつれてレジームダイアグラムと一致しなくなることが指摘している。この400回の実験と過去の研究との比較は、統計的に整理した続報で詳しく紹介する。

表2.1: 実験設定の概要

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