粒子画像流速測定法と渦運動エネルギーを用いた回転水槽実験で発生する傾圧不安定波の定量化 << Prev | Index| Next >>

1. はじめに

傾圧不安定波を模擬する方法として、1940年代から回転水槽実験(または回転円筒水槽実験)が考案され(Fluts and Kaylor, 1959)、これまで気象学や流体力学の研究に用いられてきた。この回転水槽実験により様々な知見が得られてきたが(例えば、Douglas and Mason, 1973; Uryu et al., 1974; Niino, 1978; Ukaji, 1979; Niino and Misawa, 1984; Niino 1988: Ukaji and Tamaki, 1989; Tajima et al., 1995, 1999; Tamaki and Ukaji, 1995, 2003; Yukimoto et al. 2010; Iga et al. 2014)、回転する水槽中の流体運動を正確に測定することは難しく、発生する波動の傾圧不安定波は目視や画像からの観測によっていた。そのため、古くから水槽実験内の流体の運動場や温度場を測定する手法の開発が取り組まれている。例えば、サーミスタ等の温度プローブを流体内に配置して直接計る方法がある(例えば、Matsuwo et al., 1976, 1977;Tamaki and Ukaji 1985)。また、カイラルネマチック液晶などを用いて、流速と温度分布を3次元的に観測した研究もある(例えば、Tajima and Kawahira, 1991)。水中に浮遊する蛍光染料マイクロカプセルの1粒子追跡を行うことで、ラグランジュ的な運動を検出する手法もある(Tajima et al., 1998)。

Hide(1969)によると、回転水槽実験で観測される水面の運動は、軸対称運動と非軸対称運動に大別される。水面で発生した非軸対象の運動は、主に傾圧不安定波の発生によるものである。しかし、回転水槽実験の水面の運動を詳しく観察すると、規則的な傾圧不安定波ばかりではなく、目視では卓越波数を同定できないようないびつな波形の運動も発生する。このような複雑な実験結果も含めて、発生している全ての運動を定量的に理解・分類するためには、水面全体の運動場を正確に測定し、各波数の波動成分を比較できる解析が必要となる。つまり、これまでの手法よりもさらに時間・空間的高解像度に運動場を測定することと、それを用いた解析手法の開発が求められる。

そこで本研究では、回転水槽実験で発生する全ての水面流体の運動を定量的に理解できる解析手法を提案することを目的とする。近年の科学技術の飛躍的な発展により、非接触で正確かつ高解像度に速度場や温度場の計測が行えるようになった。なかでも、流れに乗って移動する微粒子の運動を画像計測する粒子画像流速測定法(Particle Image Velocimetry;PIV)は、技術の向上が目覚ましい手法の一つである。PIVはおよそ30年の歴史のある技術であり、近年のPIVでは短時間で高精度の速度分布を大容量で得ることが可能となった。つまり、このPIVを回転水槽実験に用いれば、これまで開発されてきた測定手法に比べて、より時間・空間的に高解像度で水面全体の運動を定量化することができる。 また、発生した傾圧不安定波の卓越波数の定量的な同定手法には、渦運動エネルギーの算出が有効な解析手法になると考えられる。Fudeyasu et al. (2010)は、数値実験で再現された台風の渦構造を、軸対称運動と非軸対称運動に分解し、さらに波数別に分解した非軸対称成分の風から渦運動エネルギーを算出している。本研究では、この台風の理解に用いた解析方法を、水槽実験結果に応用することを試みる。

まず第2節では、PIVを用いた解析手法や実験設定について説明する。次の第3節では、その手法によって得られた結果を示す。第3.1節では、PIVを用いると回転水槽実験結果がどのように定量的に表せられるかを紹介する。第3.2節では、運動エネルギーの算出方法を紹介し、その結果を示す。最後に第4節で本研究をまとめて、今後の研究の発展性について考える。付録として、付録1では、PIVを用いることで得られたスピンアップ期間の運動を記す。付録2では最新のサーモグラフィーの結果、付録3では本文で紹介した解析結果の動画を示す。


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