TI2006 が示した E の値が大きい場合の分散曲線図においては, 隣り合う分散曲線が交差を起こす中立モードが存在していた. 分散曲線が交差を起こしている例を図6 に示す. 東進・西進慣性重力波モードの分散曲線に重なって存在する 図中の青矢印で示された分散曲線が 隣接する分散曲線と交差を起こしている. 以下では, 隣接する分散曲線の交差を引き起こす中立モードを 「交差モード」と呼ぶことにする. 交差モードは以下の性質を持っている.
TI2006 では, 交差モードに関して何も言及されていなかった. 以下では, 交差モードの発生条件および水平構造に関して調査を行った結果を示す.
図6: (a) log E=+2.70 の場合, (b) log E=+4.00 の場合の分散曲線. 青矢印は交差モードの分散曲線が存在する範囲を示す. その他の図中の記号の意味は表1と同じ. 図をクリックすると拡大図を見ることができる.
計算領域の幅を様々に変える計算を行ったところ, 慣性不安定領域の外側の領域の存在が交差モードをもたらす ことがわかった. 図7 に, 計算領域として慣性不安定領域のみを考えた場合から 計算領域の幅を広くしていった場合の結果を示す. 図7 には, 交差モードの分散曲線を良く観察することのできる E が大きい場合の結果を示している. 図7(左) は計算領域が慣性不安定領域のみを含む場合 の結果であり, ここでは交差モードは出現していない. 図7(中) は, 慣性不安定領域の北外側に 2 つ の格子点が存在する場合の分散曲線である. この場合, 東進の交差モード, 西進の交差モードの数はそれぞれ 2 つになっている. 図7(右) の場合では, 慣性不安定領域の外側に存在する 格子点は, 北側に 5 つあり, 東進・西進交差モードもそれぞれ 5 つ存在する. 図7 に示した場合以外にも順次計算領域の幅を増加させて いく計算(付録 B)もおこなったところ, 慣性不安定領域の外側の領域に格子点を 1 つ増やすと 東進の交差モード, 西進の交差モード, 連続モードの分散曲線が各々 1 つ増 えることがわかった. 逆に, 慣性不安定領域(0 ≤ y ≤ 1)だけを計算領域 とした場合には, 南北方向の格子点数に依らず交差モードは出現しないことも確認された (付録 C).
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図7: 計算領域を変えた場合の分散曲線図. (左) 計算領域が 0.0 < y < 1.0 の場合. (中) 計算領域が 0.0 < y < 1.2 の場合. (右) 計算領域が 0.0 < y < 1.4 の場合. 図で示してあるのは, log E=+7.50 の場合. 図をクリックすると拡大図を見ることができる. [動画]をクリックすると E を変化させた 分散曲線図のアニメーションを見ることができる. 記号の意味に関しては表1を参照されたい.
図8 に, 0.0 < y < 1.2 の計算領域において log E=7.50 を与えた場合の結果を示す. この場合には, 連続モードの分散曲線の束の外に 交差モードの分散曲線だけが残った状態になっている. 図8(左) に東進交差モードの水平構造を示す. 交差モードは, 慣性不安定領域の外側の領域 y > 1 において 大きな振幅を持つことが示されている. 同様に, 西進交差モードも y > 1 において大きな振幅を持つ ことも確認された (付録 D参照). E が小さい場合には, 交差モードの分散曲線は隣り合う分散曲線と交 差を起こしていないけれども, 慣性不安定領域の外側で交差モードの振幅が大きくなる ことが確認された(付録 D参照). このように, 慣性不安定領域の北側(南側)に計算領域が存在する場合には, 東 進, 西進であるかに依らず, 交差モードは慣性不安定領域の北側(南側)で大き な振幅を持つ. 以上より, 交差モードは慣性不安定領域の外側のチャネル領域に存在する 重力波的モードであろうと想像される. 赤道波というより中緯度β面の重力波的な 性質を持つモードなのであろう.
図8: log E=7.50, k=0.15 の交差モードの分散曲線(右図)と水平構造(左図). 計算領域を 0 < y < 1.2 した場合の結果. 右図の緑丸印のモードの水平構造を左図に示す. 左図のコンターはジオポテンシャル, ベクトルは速度場を表す. 水平構造の図の等値線間隔は, 1.0 × 10-6 である. 右の分散曲線図の記号の意味に関しては表1を参照されたい. 図をクリックすると拡大図を見ることができる.