粉体層上の動摩擦係数測定実験とその流体力学的考察

考察 1 円盤の浮上

主要な結果 3 より、粉体層の存在が、通常の剛体間の動摩擦係数を低下させる場合(滑走状態B)があることがわかった。ここでは、その滑走状態Bでの動摩擦係数低下のメカニズムについて考察する。

まず、圧縮された状態の小麦粉・片栗粉層上の滑走では、主要な結果 2で示したような典型的な速度変化が認められず、滑走状態Bに移行しない。圧縮された粉体は、圧縮されていない粉体に比べ流動性が低いとすれば、滑走状態Bの移行する為には、粉体層の流動性の高さが必要であると考えられる。

滑走状態Bでの滑走の痕跡が圧縮されていないこと(主要な結果 1の滑走痕B)から、滑走状態Bでは、粉体層は流動性を失わず、円盤はその粉体層の上に浮いていると考えられる。

ここで、円盤が浮いていることが動摩擦係数低下の直接的原因であるとする。その場合、問題となるのは、粉体層が如何にして自分よりも遥かに密度の高い円盤を浮かせているのか、ということである。

円盤の速度が低下し、滑走状態Cに移行すると、粉体層中に沈みながら(主要な結果 1の滑走痕C)、急激に減速している。このことから、円盤が浮上する為には、ある臨界速度が存在し、その速度以下では円盤が浮いていることができず、粉体層中に沈んでしまう、と考えられる(図22)。この臨界速度を浮上臨界速度と呼ぶことにする。



22 臨界速度の概念図
円盤に固定した座標で描かれている。円盤は相対速度に応じて何らかのメカニズムで発生する上向きの力によって支えられており、速度が臨界速度を下回ると、粉体層中に沈む。

円盤浮上のメカニズムは、このような浮上臨界速度の存在を説明でき、その値を与えるものであるはずである。この事を踏まえ、考えうるメカニズムを検討する。


粉体層上の動摩擦係数測定実験とその流体力学的考察